ナビゲーション
ごとうちかこ
あたらしい夢をみつける視力が
落ちてきた
道案内を さがして歩く
足のちからも弱くなり
時々は ヒリヒリと痛む
ただひとつ
手の力だけは 残っているようだ
いつの頃から握っていたのか
手のなかにある 古い磁石
今だから分かる
あのとき磁石の針が
指していたもの
落としてしまわないように
失くしてしまわないように
手を閉じて 指を組む
考えても 考えても
答えのでないまま ここにいて
手のなかにある
このナビだけが 確かな支え
その支えを手放さなければ
わたしは 今も
こうして立っていられる
ひと休みして
ごとうちかこ
もうここまで来たのだから
あわてることはない
時刻は分からなくても
電車は必ず やってくる
もうここまで来たのだから
この駅で
すこし休んでいこう
線路の先にある景色は
乗ってから
電車の窓から見ればいいさ
手もとにある 少しばかりの
おこづかいで
買えるだけの切符を買って
行ける駅まで 行ってみよう
大好きな
青と白の車両だといいな
それもなんだか わくわくするね
だから もう少しだけ
あせらないで
落ち込まないで
次の電車が来るまで 待とう
レールが続いているかぎり
電車は必ず
来てくれるから
Enter Key
ごとうちかこ
エンターキーが 待っている
今打ち込んでいるものを
決めなくちゃならない
ここまで打ったのに
最後の最後で 迷っている
ESC
エスケープキーが見える
なかったことにして
逃げだすこともできる
考え直すことだって できる
キーの上 すれすれのところで
手は止まる
わずか一秒あるかないかの瞬間を
キーは 黙って見ている
打っていいよとは言ってくれない
違っているよとも言わない
ただ黙って 待っている
そうだね
エンターキーを押すのは
この わたしだから